骨盤底筋をテーマに、これまで基礎知識やトレーニング方法について、3回にわたり解説してきました。今回は、これまでの内容を振り返りながら、その他気を付けるべきポイントなど、MTXスポーツ・関節クリニックの阿多由梨加院長に解説いただきました。
骨盤底筋で防げる不調と“加齢による変化”の気づき方
阿多院長:骨盤底筋を鍛えることで、さまざまな不調の悪化を防ぐことができます。中年期の女性や出産経験のある方に多く見られる尿漏れや、慢性的な肩こり、腰痛などは、骨盤底筋を強化し体幹を安定させることで改善が期待できます。
また、骨盤底筋は呼吸に関与する横隔膜と連動して動くため、鍛えることで横隔膜や胸郭の動きが改善され、深い呼吸がしやすくなります。深い呼吸は副交感神経を優位にし、脳内ではセロトニンという「幸せホルモン」の分泌が促されます。これにより、リラックスやストレスの緩和にもつながります。

骨盤底筋のトレーニングは、身体の不調を改善するだけでなく、心身を整える習慣としても非常に効果的です。
骨盤底筋の機能低下によって起こるリスク
阿多院長:骨盤底筋の機能が低下したままでは、尿をうまく溜めることができず、わずかな圧力で尿漏れが起こることがあります。さらに、子宮や膣などが外に出てしまう子宮脱や膣脱、いわゆる「骨盤臓器脱」につながる可能性もあります。
骨盤底筋は体幹を支える重要な役割を果たしていますが、これが弱まると他の部位に負担がかかり、腰痛や骨盤の痛み、頚部痛、肩こりなどの痛みや慢性的な不調の原因となることがあるので注意しましょう。
骨盤底筋と合わせて気を付けたいポイント
1.女性ホルモンと骨盤底筋の関係
阿多院長:私たち女性は、体のリズムに変化が見られる時期があります。
初経(初潮)、妊娠、出産、閉経といった体の変化に大きく関与しているのが女性ホルモンである「エストロゲン」です。
女性のライフサイクルとエストロゲンの血中濃度は密接に関連しており、思春期を経て性成熟期にピークを迎えますが、更年期には卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌が大幅に減少します。
2.女性ホルモン減少による体の影響
阿多院長:エストロゲンは、軟骨や靭帯、筋肉を活性化し、関節を安定させる役割を果たします。また、骨の形成を促進し、骨の吸収を抑制します。エストロゲンの減少により、骨盤底筋の機能や骨密度が低下し、これが骨盤痛や腰痛の原因となることがあります。

特に閉経後は、急激な女性ホルモンの減少により骨の強度が低下します。その結果、背骨の骨折(椎体圧迫骨折)や太ももの骨折(大腿骨頚部骨折)が発生し、寝たきりになるなど生活の質が低下することが多く報告されています。
専門医だからできること
阿多院長:骨密度や血液中の女性ホルモン値は、MTXスポーツ・関節クリニックで検査が可能です。治療は、骨の健康を保つために重要な「活性型ビタミンD」と呼ばれる医薬品やエストロゲン補充療法を行っています。
また、乳がんや血栓症などの既往歴があり、エストロゲンの補充ができない方には、骨にのみ女性ホルモンのような作用をもたらす「SERM」と呼ばれる内服薬が有効な場合があります。
それぞれの症状に応じた治療や処方が可能ですので、お気軽に当院にご相談ください。

骨盤底筋のトレーニングは、何歳からでも始めることができます。
女性の体は多くの変化を経験し、特に女性ホルモンが大きく減少する更年期には、骨盤底筋の機能も低下しやすくなります。時には医療機関の助けを借りながら、ライフサイクルに応じたトレーニングや治療を行っていきましょう。
\今回お話を伺った先生/
